こんにちは。ブラッシュボイスです。
「舌の位置を正しくしようとすると、かえって高い声が出なくなる」──ボイストレーニングに取り組む方から、このようなご相談をいただくことは少なくありません。鏡を見ながら舌のポジションを確認して発声すると、今まで出ていた高音が出せなくなってしまうという現象です。
結論からお伝えすると、正しい舌のポジションで力が抜けた状態であれば、高い声は必ず出ます。では、なぜ舌の位置を意識したとたんに高音が出しづらくなるのか。それは「正しいポジションに舌を持ってこようとする行為そのものが力みを生んでいるから」です。
この記事では、舌の位置と高音発声の関係について詳しく解説し、力みを取りながら正しいポジションを身につけていくための具体的なトレーニング方法をご紹介します。
舌の位置を意識すると高い声が出なくなる原因
実際のご質問
HN:finnn
性別:女性
年齢:25
ご質問タイトル:高音の発声について
はじめまして。
趣味で歌を嗜んでおります。
高音を歌う際、マイクには乗るのですが細い声になってしまうため、できるだけ舌が上がらないように意識しながら発声するようにしています。
そうするとどうしても舌に力が入ってしまいますし籠ったような声になってしまいます。
鏡を見ながら舌の位置を確認し上がらないように発声すると今まで出ていた高い音まで出すことができません。
腹式が甘いのでしょうか。
改善策のアドバイスをお願い致します。
舌のポジションを意識することで力みが生じている
今回のご質問のように、舌の位置を意識すると高い声が出なくなる(出しづらくなる)というのは、ボイストレーニングの現場で非常によくある現象です。腹式呼吸が足りないわけでも、共鳴が足りないわけでもありません。
原因はシンプルで、正しい位置に舌を持ってこようとする行為自体が、慣れていないうちは筋肉を使う=力んでしまう行為になっているからです。力みが入ると喉周りの自由度が下がり、高音域の発声に必要な柔軟性が失われてしまいます。
たとえるなら、舌のポジション矯正は筋トレのようなものです。正しい位置に舌を持ってくるには筋肉を使う必要がありますから、最初のうちはどうしても力んでしまいます。これは慣れないうちは誰にでも起こることであり、決してトレーニング方法が間違っているわけではありません。
力みが高音発声を妨げるメカニズム
舌に力が入ると、連動して舌根(舌の付け根)にも力みが生じます。舌根は喉頭(こうとう)のすぐ上にあるため、舌根が緊張すると喉頭が押し上げられ、声の通り道が狭くなってしまいます。これが「喉が詰まった感じがする」「こもった声になる」という症状の正体です。
高い声を出すためには、喉頭周りがリラックスしていて、声帯が自由に動ける環境が必要です。舌の力みによって喉頭が上がった状態では、声帯に余計な圧力がかかり、高音域へスムーズに移行できなくなります。喉仏が上がってしまう問題については、喉仏が上がる原因と対策の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
「こもった声」になるのも舌の力みが原因
ご質問者のfinnnさんは「籠ったような声になってしまう」ともおっしゃっています。これも舌の力みが原因のひとつです。
舌に力が入ると、口腔内のスペースが狭くなり、声が効率よく共鳴できなくなります。本来は口の中で豊かに響くはずの声が、狭いスペースに閉じ込められてしまうイメージです。結果として、声がこもって聞こえたり、響きが失われたような印象になります。
口腔内のスペースを確保するためには、喉を開く方法を理解しておくことも大切です。舌の力みと喉の開き方は密接に関連しているので、セットで意識するとより効果的です。
舌の正しいポジションとは
リラックスした状態での舌の位置
まず、発声における「正しい舌のポジション」とは何かを確認しましょう。
理想的な舌の位置は、舌先が下の前歯の裏側に軽く触れている状態です。このとき、舌全体はゆるやかなアーチを描いて口の中に収まっており、舌根も自然にリラックスしています。
この状態を保つことで口腔内に適切なスペースが確保され、声が効率よく共鳴できるようになります。ポイントは「力を入れて下げる」のではなく、「力を抜いた結果として自然にこのポジションになる」という感覚です。
母音によって舌の位置は変わる
ただし注意していただきたいのは、母音によって舌の位置は自然に変化するということです。「あ」のときと「い」のとき、「う」のときでは舌の位置が異なるのが自然です。
特に「い」や「え」の母音では舌が高い位置に来やすく、これを無理に下げようとすると余計な力みが生まれます。母音ごとの自然な舌の位置を理解したうえで、それぞれの母音で不要な力みがないかを確認していくことが大切です。
鏡でチェックするときのポイント
ご質問者のfinnnさんのように、鏡を見ながら舌の位置を確認するのは非常に良い練習方法です。ただし、鏡を見ながら発声するときには少し注意が必要です。
鏡で舌の位置を「目で確認しよう」と意識しすぎると、そこに集中力が向いてしまい、身体全体のリラックス感が失われやすくなります。はじめは声を出さずに舌の位置だけを確認し、その感覚を身体で覚えてから声を出す、という段階を踏むと良いでしょう。
舌の力みを取りながら正しいポジションを身につける方法
それでも舌は正しい位置に持ってきてください
ここまで読んで「力むなら舌のポジション矯正はやめたほうがいいのでは?」と思われた方もいるかもしれません。
この疑問に対しての回答は、「それでも舌の位置は正しい場所に持ってきてください」ということになります。
長年の癖で舌の位置がずれている場合、正しいポジションに持ってくるために最初は力んでしまうのはやむを得ないことです。しかし、ある程度力んででも正しい位置にポジションをトレーニングしていくことは、歌の上達において非常に重要なステップです。
舌は筋肉で動きますから、正しい位置に持ってくるように筋肉を使っていかなければ、いつまでも正しいポジションには到達できません。最初は力みながらでも続けていくうちに、徐々に少ない力で正しいポジションを取れるようになっていきます。
あくびのフォームで舌根をリラックスさせる
舌の力みを和らげるために効果的なのが、あくびのフォームを活用したトレーニングです。
あくびをするとき、口の奥が大きく開いて舌根が自然に下がります。この感覚を覚えることがポイントです。具体的なステップは以下のとおりです。
1. 実際にあくびをして、喉の奥が広がる感覚を確認する
2. あくびの状態をキープしたまま「あー」と声を出してみる
3. その状態で舌先が下の前歯の裏に軽く触れているか確認する
4. 慣れてきたら「あー」から他の母音にも展開していく
このトレーニングを繰り返すことで、舌根がリラックスした状態での発声感覚が身についていきます。
「舌ベー」エクササイズ
舌を「べー」と前に出すエクササイズも有効です。舌を思い切り前に出すと、舌根が自然に下方向へ引っ張られます。
1. 舌を「べー」と前に出したまま5秒キープ
2. 舌を戻して力を抜く
3. これを5回繰り返す
4. そのあと、リラックスした状態で「あー」と声を出す
舌を出したり戻したりすることで、舌全体の緊張と弛緩のコントロールが身についていきます。このエクササイズは、滑舌の改善にも効果がありますので、舌の動きが硬いと感じる方にはとくにおすすめです。
リップロールとの組み合わせ
舌の力みを取るトレーニングとして、リップロールとの組み合わせも効果的です。
リップロールは唇を「ブルルル」と震わせながら声を出すエクササイズですが、リップロールをしているとき、舌や喉には余計な力が入りにくいという特徴があります。リップロールをしながら音程を上下に動かしてみてください。高音域でも喉周りがリラックスした感覚が掴みやすいはずです。
リップロールで高音を出す感覚を身体に覚えさせてから、同じ感覚を保ったまま通常の発声に移行していくと、舌に力が入りにくくなります。
段階的に高音域を広げていく
舌を正しい位置にキープしながら高音を出す練習は、一気に高い音に挑戦するのではなく段階的に行うのがコツです。
1. まず中音域で舌のポジションを確認しながら発声する
2. 力みなく出せることを確認したら、半音ずつ上げていく
3. 舌に力が入ったと感じたら、その音域で止めて力を抜き直す
4. 力が抜けた状態を再確認してから、もう一度同じ音にチャレンジする
この方法を繰り返すことで、舌のポジションを正しい位置に保ちながら、高い声が出せる音域が少しずつ広がっていきます。焦らず、毎日コツコツ取り組むことが大切です。
よくある間違いと注意点
舌を無理に押し下げない
「舌を下げなければ」と意識するあまり、舌を無理に押し下げてしまう方がいます。しかしこれは逆効果です。舌を強引に下げる行為もまた「力んでいる」状態であり、喉周りの自由度を失わせてしまいます。
正しいのは「舌を下げる」ではなく「舌の力を抜く」という意識です。力を抜いた結果として舌が自然なポジションに収まる、という順序を意識してみてください。
腹式呼吸だけで解決する問題ではない
ご質問者のfinnnさんは「腹式が甘いのでしょうか」とおっしゃっていますが、今回のケースは腹式呼吸の問題ではありません。
もちろん腹式呼吸は歌唱の基本として非常に重要ですが、舌の力みによって高音が出なくなっている場合は、いくら腹式呼吸を強化しても根本的な解決にはなりません。今回の問題の原因は舌の力みにあるので、まずは舌のポジショントレーニングに集中して取り組むことが最善策です。
声の「細さ」と舌の力みの関係
finnnさんは「高音を歌う際に細い声になってしまう」ともおっしゃっています。高音で声が細くなる原因には複数の要素が考えられますが、舌根に力が入って喉のスペースが狭くなっていることも要因のひとつです。
舌の力みを取るトレーニングを続けることで、喉周りにゆとりが生まれ、高音域でも豊かな響きを持った声が出しやすくなっていきます。加えて、喉を開く意識を持つことで、さらに効果が高まります。
練習のスケジュール目安
最初の1〜2週間
まずは発声を伴わない舌のポジション確認に集中しましょう。鏡の前で舌の位置を確認し、リラックスした状態で正しい位置に持ってくる練習を毎日5〜10分程度行います。声は出さずに、舌の感覚だけに集中するのがポイントです。
2〜4週間目
舌のポジションに少し慣れてきたら、低〜中音域で声を出す練習に移行します。舌の位置を確認しながら「あー」「おー」など、舌根が上がりにくい母音から始めると取り組みやすいです。あくびのフォームやリップロールと組み合わせて行うと効果的です。
1ヶ月目以降
中音域で力みなく発声できるようになったら、段階的に高音域に挑戦していきます。この頃には舌のポジション維持に必要な筋力がある程度ついてきているので、以前ほどの力みは感じなくなっているはずです。
ただし個人差がありますので、焦らずご自身のペースで進めていくことが大切です。
まとめ
舌の位置を意識すると高い声が出なくなるという現象は、ボイストレーニングの過程でよくあることです。原因は舌を正しいポジションに持ってくる際の力みにあり、腹式呼吸や共鳴の問題とは異なります。
今の方法が間違っていると思わずに、舌の位置を正しい場所に持ってくるトレーニングを継続してください。慣れてくれば力みも取れ、正しいポジションのまま高い声が出せるようになります。
今回のポイントをまとめると以下のとおりです。
・舌を正しい位置に持ってくる際の力みが高音を妨げている
・力むのは慣れていないだけなので、それでも正しい位置で練習を続ける
・あくびのフォームやリップロールを活用して力みを和らげる
・段階的に音域を広げていく
・舌を「下げる」ではなく「力を抜く」意識が大切
もし不安な場合は、ボイトレ無料体験レッスンでボイストレーナーに直接舌のポジションを確認してもらうことをおすすめします。目の前で舌の状態を見てもらうことで、自分では気づけない癖が見つかることも多いです。マイクに乗るか乗らないかという声の状態や、腹式呼吸の状態もあわせてチェックしてもらえますので、ぜひ活用してみてください。

