こんにちは、ボイストレーニングスクール、ブラッシュボイスの堀口です。
「声がこもる」「高音が出ない」「滑舌が悪い」――そんな悩みを抱えてボイトレの情報を調べていると、割り箸を使った発声練習やペットボトルを使った発声練習、さらにはあくびを利用した発声練習といった方法を目にする機会が多いのではないでしょうか。
ネット上にはさまざまなボイトレ情報があふれていますが、「本当に効果があるのか」「続けても大丈夫なのか」という点については、あまり踏み込んで書かれていないケースも少なくありません。
今回の記事では、ボイストレーナーとしてこれら3つの発声練習法を実際に試し、それぞれの効果・メリット・デメリットを本音で検証していきます。「試してみたけど、なんだかしっくりこない」と感じている方にも、その理由がクリアになる内容になっていますので、ぜひ最後までお読みください。
そもそも発声練習で大切なことは?
割り箸やペットボトルなど個別の方法を検証する前に、まず発声練習で本当に大切なポイントを押さえておきましょう。ここを理解しておくことで、それぞれの練習法の効果をより正確に判断できるようになります。
発声の基本は、大きく分けると以下の3つです。
- 喉をリラックスさせた状態で声を出すこと――喉に余計な力が入ると、声がこもったり、高音が苦しくなったりします。喉を開く感覚を身につけることが、発声の土台になります。
- 適切な呼吸で声を支えること――腹式呼吸は発声の基盤ですが、「たくさん息を吸えばいい」というものではありません。息の「量」ではなく「コントロール」が重要です。
- 口腔内の共鳴を活かすこと――口の中の空間(共鳴腔)を適切に確保し、声を効率よく響かせることで、無理のないクリアな声が生まれます。
これら3つのバランスが取れてはじめて、話し声でも歌声でも「伝わる声」が出せるようになります。では、この基本を踏まえたうえで、3つの発声練習法を順番に検証していきましょう。
割り箸を使ったボイトレ・発声練習を検証
割り箸発声練習のやり方
割り箸を使った発声練習は、2膳の割り箸を左右の奥歯にはさんで噛みながら発声するという方法です。ネット上でもよく紹介されている定番のボイトレ法のひとつで、わたしも実際に試してみました。
割り箸発声練習のメリット・効果
割り箸を噛んだ状態で声を出してみると、いくつかの気づきがありました。
- 喉の力が抜けた状態で発声できるため、息の通り道がよくわかる。
- 上の歯と下の歯の間に一定のほどよい隙間ができるため、口の中に声が響くスペースが確保される。
- それぞれの発音に適した舌の動かし方がよくわかる。
確かに、割り箸を噛んだ状態で発声すると声の響きを感じやすくなります。普段は意識しづらい「喉がリラックスしている感覚」や「口腔内の空間」を体感できるという点では、一定の効果があると言えるでしょう。
特に、喉を開く感覚をまだつかめていない初心者の方にとっては、「あ、この感じが力みのない状態なんだ」という気づきを得るきっかけにはなるかもしれません。
割り箸発声練習のデメリット・注意点
ここからが重要なポイントです。割り箸を噛んだ状態で感覚をつかんだら、次に割り箸を外して同じ発声をしてみましょう。
「ん?」と違和感に気づいた方はいらっしゃいますか?
わたしは、下あごの位置にとても違和感を覚えました。
本来、発声時は自然に落とした状態の下あご(無意識にポカーンと口が開いているのを想像してみてください)が理想です。しかし、割り箸を噛んでいる状態から発声練習を始めると、下あごが不自然に固まってしまうのです。
これはなぜかというと、割り箸を噛むという動作自体が「噛み締める」方向の力を生んでしまうからです。割り箸を使った発声練習と自然なフォームでの発声練習では、口の中のカタチが根本的に異なります。
無意識にポカーンと開いた口で声が響くポイントをつかむ練習を重ねるほうが、実際の会話やステージで使える声を見つける早道ではないかと感じました。
割り箸発声練習の結論
一時的に喉の力みを緩める「確認」には適していますが、継続して利用すると自然な発声フォームを崩す原因になりかねません。
あくまで「その一瞬だけでも喉がリラックスした感覚をつかむ」ために利用するくらいであればOKですが、毎日のルーティンとして割り箸を噛みながら発声し続けるのはおすすめしません。感覚をつかんだら、できるだけ早く割り箸なしの自然なフォームに移行することが大切です。
ペットボトルを使ったボイトレ・発声練習を検証
ペットボトル発声練習のやり方
ペットボトルを使った発声練習を検索すると、「腹式呼吸」や「肺活量」を「鍛える」「増やす」といったワードをよく目にします。
一般的なやり方としては、空のペットボトルの中の空気を口で吸い込み(ペットボトルが潰れる)、外して発声するという方法です。わたしも実際にやってみました。
ペットボトル発声練習のメリット・効果
率直に言って、実際にやってみるとかなりハードです。
ペットボトルの空気を吸い込むのには相当な力が必要で、肺活量のトレーニングとしては確かに「鍛えている感」はあります。呼吸筋を意識するきっかけにはなるかもしれません。
しかし、ここで冷静に考えてみてください。歌う時でも話す時でも、こんなにたくさんの息を吸い込んで吐くことはまずありません。
ペットボトル発声練習のデメリット・注意点
みなさんもご存知のとおり、人はもともと腹式呼吸ができるようにできています。赤ちゃんはお腹で自然に呼吸していますし、寝ているときは誰でも腹式呼吸になっています。
腹式呼吸のために余計な力を使うことは、かえって体の力みとなり、息のコントロールもできなくなります。ペットボトルで極端に負荷をかけた呼吸トレーニングは、実際の発声に必要な「自然で安定した息の流れ」とはかけ離れたものになりがちです。
聞きとりやすいクリアな声で話をするため、あるいは歌を歌うために、たくさんの息(肺活量)は必要ありません。(※広いステージでライブ中に走り回ったり、激しめのパフォーマンスをされる方は別ですが、それでも必要なのは肺活量ではなく「体力」です)
発声練習は「量」(ボリューム)ではなく「質」(響き)を意識して取り組むことで、自分の理想の声を見つけやすくなります。大きな声や多くの息が必要なのではなく、少ない息でも効率よく声帯を振動させ、共鳴腔で響かせることが重要です。
ペットボトルの蓋を使った発声練習も検証
なお、ペットボトルの蓋をくわえて発声練習する方法も紹介されていましたので、こちらも試してみました。
割り箸より幅があるペットボトルの蓋ですので、ぽかーんと開けた口の状態には多少近づきました。しかし、蓋をくわえることで下あごに不自然な力みが生じます。この点は割り箸と同じ問題です。
継続して行うことはおすすめしません。
ペットボトル発声練習の結論
発声のための呼吸を鍛えたいのであれば、ペットボトルを使うよりも、もっとシンプルで効果的な方法があります。
声がでこぼこ波打たないように、まっすぐ出せるよう練習してみてください。細く長く一定に吐いた息に声をのせられるようになれば、発声に必要な呼吸のコントロールとしては十分です。
また、呼吸と発声のウォーミングアップとしてはリップロールがとても効果的です。リップロールは唇を「ブルルル」と振動させながら声を出す練習で、余計な力みを取りながら息の流れと声帯の振動を同時にトレーニングできます。ペットボトルのように大げさな道具を使わなくても、いつでもどこでも実践できるのが大きなメリットです。
あくびを利用したボイトレ・発声練習の効果を検証
あくび発声練習のやり方と一般的なイメージ
「あくびの状態で発声すると喉が開いて良い声が出る」――こうした情報はボイトレの世界では非常に有名で、多くのサイトや動画で紹介されています。
では、早速あくびのときのように大きく口を開いて発声してみましょう。
あくび発声練習のメリット・効果
あくびの状態を意識すると、確かに喉を開く感覚は得られます。喉仏が下がり、喉全体がゆるんでいる状態を確認するという意味では、参考になる部分もあります。
「喉の可動域を知る」という点では、あくびの動きを頭の片隅に置いておくことで、使える場面が来るかもしれません。
あくび発声練習のデメリット・注意点
しかし、実際にあくびの状態で声を出してみると――
「ふわぁぁぁ」という奥にこもった芯のない声が出て、とても話し声や歌声に使えるものではないですよね。
これには明確な理由があります。実際にあくびをしてみるとよくわかりますが、あくびをすると下の図の●●●の部分(軟口蓋(ナンコウガイ))が上がりすぎて、@の部分が圧迫されます。その結果、声を共鳴させるための空間のひとつである鼻(鼻腔(ビクウ))への通り道を閉ざしてしまうことになるのです。
つまり、あくびの状態では口腔は広がるものの、鼻腔への共鳴が失われるというトレードオフが発生しています。人の声は口腔と鼻腔の両方を使って共鳴させることで豊かな響きが生まれます。片方だけでは、どうしても不自然でこもった声になってしまいます。
さらに、あくびの状態を意識すると過剰な量の息が流れ、声帯が開きっぱなしになるため、声のコントロールも難しくなります。息が漏れすぎることで声に芯がなくなり、いわゆる「息っぽい声」になってしまうのです。
あくび発声練習の結論
あくびの状態は喉を開く感覚の「最大値」を知るには参考になりますが、発声に使える状態ではありません。
@の部分を圧迫しすぎることなく口の中の空間を確保すること――つまり、軟口蓋の上がり方と鼻に抜けるバランスを意識しながらイメージ通りの声を出すコツをつかんでいくことが大切です。あくびほど極端に開くのではなく、「適度に喉が開いている状態」を見つけることがゴールになります。
3つの発声練習法を比較して見えてくること
ここまで、割り箸・ペットボトル・あくびの3つの発声練習法を検証してきました。それぞれの特徴を整理してみましょう。
- 割り箸:喉のリラックス感や口腔内の空間を体感できるが、下あごの不自然な力みを生む。感覚の確認用としては一時的に有効。
- ペットボトル:呼吸筋のトレーニングにはなるが、実際の発声に必要な「息のコントロール」とは別物。過剰な負荷は力みの原因に。
- あくび:喉の可動域を知るには参考になるが、軟口蓋が上がりすぎて鼻腔共鳴が失われる。発声に使える状態ではない。
3つに共通して言えることは、「発声のある一面を体感するきっかけにはなるが、実際の話し声や歌声に直結するトレーニングではない」ということです。
息の通り道をイメージしやすいという点ではメリットがありますが、発声練習または実戦で使えるかというと、それはまったくの別物です。道具を使った練習で得た感覚と、道具なしで自然に発声する感覚の間には、どうしてもギャップが生じてしまいます。
では、本当に効果的な発声練習とは?
割り箸やペットボトルに頼らなくても、自分の体ひとつでできる効果的な発声練習はたくさんあります。ここでは、ボイストレーナーとしておすすめできる基本的な練習法をいくつかご紹介します。
1. リップロールで脱力と呼吸のバランスを整える
リップロールは、唇を軽く閉じた状態で息を吐き、「ブルルル」と唇を振動させる練習です。声を乗せて行うことで、以下の効果が期待できます。
- 喉や顔の余計な力みを取り除ける
- 息の量と声帯の振動のバランスを自然に調整できる
- 音程を安定させる感覚が身につく
割り箸やペットボトルと違い、道具を使わないため「道具ありの感覚」と「道具なしの感覚」のギャップが生まれません。そのまま実際の発声につなげやすいのが大きな利点です。
2. 喉を開く感覚を自然につかむ練習
喉を開くためにあくびの状態を再現する必要はありません。「無意識にポカーンと口が開いている状態」をイメージし、その状態で軽く声を出してみましょう。
あくびほど極端に開かなくても、喉がリラックスしていれば声は自然と響きます。鏡を見ながら口の開き具合を確認し、「声が一番楽に、一番響く位置」を探していく練習がおすすめです。
3. 腹式呼吸のコントロール練習
腹式呼吸を「鍛える」のではなく、「コントロールする」練習が効果的です。具体的には、細く長く一定の息を吐き続け、その息に声をのせる練習をしてみてください。
声がでこぼこ波打たず、まっすぐ安定して出せるようになれば、発声に必要な呼吸の基盤は十分に整っています。ペットボトルで肺活量を増やすよりも、この「まっすぐ声を出す」練習のほうがはるかに実戦的です。
自分に合った発声フォームを見つけることが最大のボイトレ
人それぞれ容姿が違うように、骨格、口・鼻の形、声帯の長さも一人ひとり異なります。ある人にとって効果的な口の開け方が、別の人には合わないということは珍しくありません。
さまざまなサイズやデザインの洋服の中からお気に入りを選ぶように、発声練習の際も口の開け方や表情、息のスピードなどさまざまなパターンを試してみてください。
「自分サイズのフォーム」を見つけることこそが、効果的なボイトレ方法・トレーニング方法への最短ルートです。割り箸やペットボトルといった道具に頼るよりも、自分の体で感覚を磨いていくことが、長い目で見て確実に力になります。
まとめ:割り箸・ペットボトル・あくびの発声練習はあくまで「参考」にとどめよう
今回検証した3つのトレーニング方法をあらためて振り返ります。
- 割り箸:喉のリラックス感を「一瞬つかむ」には有効。ただし継続使用は下あごの力みにつながる。
- ペットボトル:肺活量のトレーニングにはなるが、発声に必要なのは「息の量」ではなく「息のコントロール」。
- あくび:喉の可動域を知る参考にはなるが、鼻腔共鳴が失われるため発声には使えない。
いずれも感覚をつかむ「きっかけ」にはなるが、そのまま続けても実戦的な声は身につかないというのが、ボイストレーナーとしての正直な結論です。
ネット上には便利そうな「裏技」的な発声練習法が数多く紹介されていますが、地道に自分の体と声に向き合い、自分に合ったフォームを見つけていくことが、遠回りのようで実は最も確実な上達法です。
とはいえ、「自分に合ったフォーム」を独力で見つけるのは簡単ではありません。ネット上の情報の良し悪しをご自身で判断しかねる場合は、情報を鵜呑みにせず、しっかりとボイストレーナーに師事して学んでいくことを強くおすすめします。
ブラッシュボイスのボイトレ
ブラッシュボイスでは、一人ひとりの骨格や声質に合わせた口の開け方や声ののせ方を見つけるボイトレを行っています。
「割り箸やペットボトルを試してみたけど効果が感じられない」「自分に合った発声方法がわからない」という方は、ぜひ一度ボイトレ無料体験レッスンにお越しください。経験豊富なボイストレーナーが、あなたの声の現状を丁寧に分析し、最適なトレーニング方法をご提案します。
自分にとってベストな発声方法を模索中の方、割り箸・ペットボトル・あくびなどの練習法に疑問を感じている方のお越しを、お待ちしております。お気軽にご相談ください。
関西ボイストレーナー/堀口 愛子


