こんにちは。ブラッシュボイスです。
レッスンでも「May J.さんの曲を歌いたい」「Let It Goをカラオケで上手く歌いたい」というご相談をよく頂きます。実際に歌ってみると、サビの高音ロングトーンで声が不安定になったり、フレーズの入りがぼんやりしてしまうというお悩みを抱えている方が本当に多いんです。
May J.さんといえば、ディズニー映画「アナと雪の女王」の日本語版テーマソング「Let It Go〜ありのままで〜」で一躍知名度が上がりましたよね。あの「少しも寒くないわー」のサビを聴いて、自分もあんな風に歌いたいと思った方も多いのではないでしょうか。
しかし、May J.さんの歌をよく分析してみると、単に高い声が出るだけではなく、発声の土台となる脱力・呼吸コントロール・子音の処理が非常に高いレベルで組み合わさっていることがわかります。一見すると「もともと歌が上手い人」で片づけてしまいがちですが、実はボイストレーニングの観点から見ると、一つひとつの要素を丁寧に積み重ねた結果なんです。
この記事では、ボイストレーナーの視点からMay J.さんの歌い方の特徴を分析し、あの安定した高音ロングトーンや美しい子音の発音に近づくための具体的な練習方法を、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
May J.さんの歌い方の大きな特徴2つ
May J.さんの歌を分析すると、特に際立っている特徴が大きく2つあります。
1つ目は、サビのトップで聴かせる高音ロングトーンの圧倒的な安定感です。Let It Goの「少しも寒くないわー」に代表されるように、高い音をかなり長い時間伸ばしても声がブレない。これは並大抵の技術ではありません。
2つ目は、子音の発音の美しさとフレーズ処理の巧みさです。May J.さんは英語がネイティブレベルであり、その影響が日本語の歌にも表れています。一つひとつの言葉の入り方がとてもクリアで、歌全体に輪郭と表現力を与えているんです。
この記事では、この2つの特徴に焦点を当てて、それぞれの要素を掘り下げながら練習方法まで解説していきます。
May J.さんの高音ロングトーンが安定している理由
Let It Goのサビ、「少しも寒くないわー」のトップの音。あの高音をかなりのロングトーンで歌い切るMay J.さんの技術は、ボイストレーニングの観点から見ても非常にレベルが高いです。
では、なぜあれほど安定して高音を伸ばせるのか。その秘密を紐解いていきましょう。
すべての土台は「脱力」にある
高音のロングトーンを安定させるために、最も重要な土台となるのが上半身の脱力です。これは逆説的に聞こえるかもしれません。「高い声を出すんだから、力を入れないと出ないのでは?」と思う方も多いでしょう。
しかし実際は、上半身に余計な力みが生じていると、高音のロングトーンは絶対に安定しません。肩や首に力が入ると、喉周りの筋肉が硬直してしまい、声帯が自由に振動できなくなるからです。イメージとしては、ギターの弦を指で強く押さえすぎると音が詰まってしまうのと同じ原理ですね。
May J.さんの歌唱時の姿を見ると、高音でもリラックスした佇まいで歌っているのが印象的です。あの安定感は、力を入れることで生まれているのではなく、必要のない力を徹底的に抜いた結果として生まれています。
脱力と発声の関係については、こちらの記事で詳しく解説しています。
脱力と発声の関係・練習方法
脱力の具体的な練習方法
では、具体的にどうすれば脱力した状態で高音が出せるようになるのでしょうか。
まず意識すべきは、力を入れるのは「お腹だけ」ということです。上半身は肩も首も顎もリラックスさせたまま、お腹(特に下腹部)にだけ安定した支えを作ります。
よくある練習方法として効果的なのが、肩を回しながら歌うというものです。肩に力が入ってしまいやすい方は、発声しながらゆっくり肩をぐるぐる回してみてください。肩を動かしている状態では肩に力を込めることができないため、自然と余計な力みが抜けていきます。
最初のうちは「こんなに力を抜いて大丈夫なの?」と不安になるかもしれませんが、力みを抜いた状態でこそ喉が自由になり、高音が出しやすくなることを体感できるはずです。
口の形と舌の位置がロングトーンの安定を左右する
脱力ができた上で、次に意識するべきなのが口の形・舌の位置・お腹の使い方の3点です。この3つが正しくセットされているかどうかで、ロングトーンの安定感は大きく変わります。
たとえば母音の「あ」で練習するとしましょう。まず口を「あ」の形にしますが、ここで大切なのは力まずに自然に開くということです。大きく開こうとしすぎると顎に力が入ってしまい、逆効果になります。
次に舌の位置です。舌も力ませず、舌の先端は下の前歯の裏側に軽く触れるようにします。こうすることで口の中の空間(口腔)が広くなり、声が共鳴しやすくなります。舌が上がってしまったり、奥に引っ込んでしまうと、口腔内が狭くなって声がこもったり詰まったりする原因になるので注意しましょう。
口の形と舌の位置が正しくセットされた状態は、いわば声の「通り道」が最大限に広がった状態です。この状態で喉が開き、声がしっかり共鳴するのです。
上咽頭発声と下腹部の意識で高音を安定させる
口の形と舌の位置が整ったら、いよいよ発声です。ただし、いきなり高い音から始めるのではなく、最初は中音域の楽な高さから試すことをおすすめします。
発声時のポイントは2つあります。
1つ目は、お腹に一定の力を入れて支えを作ることです。特に、おへそより下の下腹部を意識するとコントロールしやすくなります。よく「お腹から声を出す」と表現されますが、それは下腹部で息の圧力を安定させるということなんです。
2つ目は、出した声を上咽頭(鼻の奥の高い位置)に当てるようにして発声することです。高音を出す際に「頭の上に声を飛ばす」ようなイメージを持つと、自然と上咽頭への意識が生まれます。喉の奥から真上に向かって声が抜けていくような感覚ですね。
高音の発声テクニックについてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。
高音の出し方・高い声が出ない原因と練習方法
ロングトーン中に「動かさない」ことの重要性
ここまでの流れを簡単にまとめると、「脱力→口の形・舌の位置をセット→下腹部で支えて上咽頭に当てる」というステップになりますが、ロングトーンで最も大切なのは発声中に口の形・舌の位置・お腹を動かさないことです。
実際にやってみると、これが意外と難しいんです。レッスンでも、ロングトーンの途中で口が動いてしまったり、舌が動いてしまう方はかなり多くいらっしゃいます。口や舌やお腹が途中で動いてしまうと、声が途端にブレてしまいます。
May J.さんのあの安定したロングトーンは、この「動かさない」というシンプルだけれど難しいコントロールが、極めて高いレベルで実現されている結果なのです。
鏡を見ながら練習すると、自分の口や舌が途中で動いていないかチェックしやすいのでおすすめです。スマートフォンで録画して確認するのも良い練習方法ですね。
May J.さんの子音の発音が美しい理由
May J.さんの歌の2つ目の特徴である、子音の発音の美しさについて詳しく見ていきましょう。
英語ネイティブが持つ子音の豊かさ
May J.さんは子音の発音がとてもキレイです。これは、英語がネイティブレベルである方の歌い方に共通する特徴とも言えます。
日本語は基本的に「子音+母音」のセットで一つの音が成り立っています。たとえば「か」は「K+A」、「た」は「T+A」というように。そして日本語の子音の種類はそれほど多くありません。
一方、英語は日本語よりもはるかに多くの子音を持っています。「th」「v」「f」「r」「l」など、日本語にはない音がたくさんあり、それぞれの子音を明確に区別して発音する必要があるんです。
このような英語の子音をネイティブレベルで操れるMay J.さんが日本語の歌を歌うと、一つひとつの子音が非常に繊細かつクリアに発音されるため、言葉全体に輪郭が生まれ、聴いていてとても美しく感じるのです。
子音のアタックがフレーズに「キレ」を生む
具体的にMay J.さんの歌い方で注目してほしいのが、「K」「T」「P」「D」などの破裂音と呼ばれる子音の扱い方です。
これらの子音は、口の中で一瞬息を止めてから解放することで発音されます。May J.さんは、この「止めて解放する」というプロセスを非常にキレイにアタック(しっかりと発音)するため、その後に続く母音が鮮やかに響くのです。
たとえば、「君のそばにいたい」という歌詞があったとしましょう。フレーズの入りの「君」の「K」の部分を、少しアタックを強めにはっきり発音することで、フレーズ全体にキレが生まれ、歌い出しとして非常にキレイなフレーズ処理になります。
逆に、子音が弱いとフレーズの入りがぼんやりしてしまい、歌全体がのっぺりとした印象になりがちです。カラオケで「なんとなく上手く聴こえない」と感じるとき、実は子音の処理が原因であることも少なくありません。
May J.さんのフレーズ処理の巧みさ
子音の発音と密接に関わっているのが、フレーズ処理(フレーズの入り方・歌い回し・終わり方の処理)の上手さです。
細かい話になりますが、May J.さんの歌をよくよく注意深く聴くと、一つひとつのフレーズの始まりと終わりがとても丁寧に処理されていることに気づくはずです。フレーズの入りでは子音をしっかりアタックし、フレーズの終わりでは余韻を残すように音を処理する。この一連の流れが自然に行われているから、May J.さんの歌は美しく聴こえるのです。
これはビブラートにも通じる表現力の一部です。フレーズ末でビブラートをかけるタイミングや深さのコントロールも、May J.さんは非常に巧みです。ビブラートの基礎的な練習方法については、以下の記事でまとめていますので参考にしてみてください。
ビブラートのかけ方・出し方と練習方法
子音の発音を改善するための練習方法
May J.さんのように美しい子音の発音を身につけるには、どのような練習をすればよいのでしょうか。具体的な方法をお伝えします。
自分の苦手な子音を知る
まず最初にやるべきことは、自分がどの子音が苦手なのかを把握することです。
自分の歌を録音して聴き返してみてください。歌詞が聴き取りにくい部分や、フレーズの入りがぼやけている部分はありませんか?そこに苦手な子音が隠れている可能性が高いです。
日本語話者が苦手になりやすい子音としては、「S」「T」「K」の破裂音・摩擦音のアタック不足、「R」と「L」の区別が曖昧になるケースなどが挙げられます。
子音を強調して読む練習
苦手な子音がわかったら、まずは歌わずに歌詞を朗読することから始めてみましょう。歌うときは音程やリズムにも意識を取られるため、まずは子音の発音だけに集中できる環境を作ることが大切です。
朗読の際には、子音を普段の3倍くらい大げさに発音するイメージでやってみてください。最初は不自然に感じるかもしれませんが、この「大げさに練習→実際の歌ではちょうどよいバランスになる」というのは、ボイストレーニングの世界ではよくある流れです。
フレーズの入りを意識して歌う
朗読で子音の発音に慣れてきたら、実際に歌に取り入れていきましょう。
特に意識してほしいのはフレーズの入り(歌い出し)の子音です。ここがクリアに発音できるだけで、歌全体の印象がかなり変わります。
May J.さんの楽曲を題材にする場合、Let It Goのサビ「少しも寒くないわ」の「S(少しも)」、「S(寒く)」、「N(ないわ)」といった子音に注目して練習すると効果的です。
May J.さんの歌い方に近づくために押さえるべきポイントまとめ
ここまでの内容を整理して、May J.さんのような歌い方を目指すうえで特に重要なポイントをまとめていきます。
高音ロングトーンの安定に必要な3つのステップ
May J.さんのような安定した高音ロングトーンを出すには、以下の3ステップを意識してみてください。
ステップ1:上半身の脱力
肩・首・顎の力を抜く。力を入れるのはお腹(特に下腹部)だけ。肩を回しながら歌う練習が効果的です。
ステップ2:口の形と舌の位置をセットする
口は力まず自然に開き、舌先は下前歯の裏に軽く触れさせる。口腔内をできるだけ広く保つことで、声が共鳴しやすくなります。
ステップ3:下腹部で支えて上咽頭に声を当てる
おへそより下の下腹部で息の圧力を安定させ、声を鼻の奥の高い位置(上咽頭)に向かって送り出す。そして発声中は口・舌・お腹を動かさないこと。
この3つのステップは順番も大切です。脱力ができていない状態で口の形や舌の位置だけ整えても効果は薄く、まず脱力があってこそ他の要素が活きてきます。
子音の発音改善で歌全体の印象が変わる
子音の発音は、歌の上手さを左右する見落とされがちな要素です。特にフレーズの入りの子音をクリアに発音することで、歌全体にキレと輪郭が生まれ、聴いている人に言葉がしっかり届くようになります。
自分の歌を録音する→苦手な子音を見つける→朗読で子音を強調して練習する→歌に取り入れる、というステップで少しずつ改善していきましょう。
この2つを組み合わせることで近づける
高音ロングトーンの安定感と子音の美しさ。May J.さんの歌の魅力はこの2つの要素が高いレベルで両立していることにあります。
どちらか一方だけでなく、両方をバランスよく練習していくことが大切です。高音の練習で脱力を身につけると、子音の発音時にも余計な力が入りにくくなりますし、子音の発音が改善されるとフレーズの入りがスムーズになって高音への移行も楽になります。つまり、この2つの練習は互いに良い影響を与え合うのです。
May J.さんの楽曲で練習するときのアドバイス
最後に、実際にMay J.さんの楽曲を使って練習するときに知っておくと役立つポイントをお伝えします。
Let It Goで練習する場合
やはりMay J.さんの代表曲であるLet It Go〜ありのままで〜は、練習曲としても非常に優秀です。
ただし、いきなりサビの高音を全力で歌おうとするのは避けてください。まずはAメロ・Bメロの中低音域で脱力と子音の発音を意識しながら歌うことから始めましょう。中低音域で正しいフォームを身につけてから、段階的にサビの高音に挑戦するという順序が効果的です。
サビの「少しも寒くないわー」のロングトーンは、最初はそこまで長く伸ばさなくても大丈夫です。安定して出せる長さから少しずつ伸ばしていくことで、無理なく持続時間を延ばすことができます。
音程の正確さと表現力のバランス
May J.さんの歌が高く評価されているポイントの一つに、音程の正確さと感情表現の両立があります。
技術的に正確であるだけでは「上手いけど心に響かない」と言われてしまうことがありますし、逆に感情を込めすぎると音程やリズムが崩れてしまう。May J.さんはこの両方を高いレベルで実現しているからこそ、聴く人の心に届く歌唱になっています。
練習の際も、まずは音程とリズムの正確さを優先して、技術的に余裕が出てきたら感情表現を加えていく、という段階的なアプローチがおすすめです。
カラオケで実践するときのコツ
カラオケでMay J.さんの曲にチャレンジするときに、すぐに実践できるコツをいくつかご紹介します。
まず、キー設定です。原曲キーにこだわる必要はありません。自分が脱力した状態で安定して歌えるキーを見つけることが最優先です。少し低めのキーで脱力と子音の発音を意識しながら歌い、徐々にキーを上げていく方法がおすすめです。
次に、マイクとの距離です。高音のロングトーンで声量が大きくなるときにマイクを近づけすぎると音が割れてしまいます。高音部分ではやや距離を取り、低音部分では近づける、というマイクワークを意識すると、聴いている人にとって心地よい音量バランスになります。
そして、フレーズの入りの子音を意識すること。カラオケで「なんだか上手く聴こえない」と感じるときは、子音のアタックを少し強めにしてみてください。それだけで歌の印象がかなりクリアになるはずです。
ブラッシュボイスで本格的にトレーニングしてみませんか?
今回はMay J.さんの歌い方の特徴として、高音ロングトーンの安定感と子音の発音の美しさについて解説しました。
記事を読んで「なるほど」と思っても、実際に自分で練習してみると「脱力しているつもりなのに力が入ってしまう」「子音を意識すると音程がおろそかになる」など、思い通りにいかない場面が出てくるものです。これは当然のことで、文章だけでは伝えきれない微妙な感覚の部分がどうしてもあります。
ブラッシュボイスでは、生徒さん本人が気づかない細かい癖やバランスの崩れにまでフォーカスしてレッスンを行っています。「自分では脱力しているつもりだったけど、実は肩に力が入っていた」「子音の発音が弱いのではなく、舌の位置がずれていた」など、対面だからこそわかるポイントを一つずつ改善していくことで、着実にステップアップすることができます。
May J.さんのような歌い方を目指している方、高音に悩んでいる方、歌の表現力を上げたい方は、ぜひ一度ボイトレ無料体験レッスンをお試しください。実際にトレーナーに声を聴いてもらうことで、自分に合った練習方法が明確になりますよ。
株式会社ブラッシュボイス
関東代表ボイストレーナー/鈴木智大
